コンピュータで予測するタンパク質の機能と形

2019/08/09

 

  

バイオサイエンス部 バイオサイエンス室  

はじめに~タンパク質とは~

 

「コラーゲンでお肌ツルツル」、「運動後はプロテインを摂取して締まった体に」。ドラッグストアでこういった宣伝をよく見かけます。これらコラーゲンやプロテインはいずれも「タンパク質」とよばれる私たちヒトの体を作る材料の一つです。コラーゲンは皮膚や関節軟骨に多く含まれ、柔軟で「はり」のある肌の維持や、骨格の滑らかな動きに必要です。また、運動後にプロテイン(タンパク質は英語でProtein(プロテイン)といいます)の摂取が推奨されるのは、破壊された筋肉を再合成して、太くて強い筋肉を作る際の材料としてタンパク質が必要だからです。

バイオ医薬品

このようにタンパク質は我々の体内で様々な「顔」を持っていますが、近年、薬としても利用されるようになってきました。

 

2018年に本庶 佑・京都大学高等研究院 副院長・特別教授がノーベル生理学・医学賞を受賞しましたが、本庶先生の研究から生まれたオプジーボは多くのがん患者に対して顕著な治療効果が認められています。

実はこのオプジーボも「抗体」という人間の体を外敵(ウィルス等)や暴走した異常細胞(がん細胞)から体を守るタンパク質の一種です。抗体以外にも我々は様々なタンパク質を医薬品として用いてきました。糖尿病はインスリンというタンパク質を分泌できずに血糖値が高くなる病気ですが、このインスリンを医薬品として注射で補充することで血糖値をコントロールすることができます。

世界各国の製薬会社は、これらタンパク質に代表される生物が作る機能性分子を用いた医薬品を「バイオ医薬品」とよび開発に心血を注いでいます。

スーパーコンピュータでタンパク質の「かたち」を予測する

様々な機能を持つタンパク質ですが、20種類のアミノ酸が数十~数千個繋がってできた、いわば鎖や数珠のような形態をしています。アミノ酸の繋がる順番や長さ、即ち配列に応じて様々な「かたち」に折り畳まれ多様な機能を発揮するのです。そのためタンパク質の「折り畳み」=「かたち」が分かれば、機能推定や治療薬の開発に繋がる可能性があります。


近年、タンパク質の「折り畳み」をコンピュータで再現しようという試みがなされています。米国のヘッジファンドD.E.Shaw & Co. の創業者であるDavid E. Shawは私財をはたいてAnton(アントン)というスーパーコンピュータを開発し、小さなタンパク質の「折り畳み」をコンピュータで再現(シミュレーション)しました。

タンパク質の折り畳みは配列が長くなればなるほど複雑になり時間が掛かるため、現状高等生物が持つような複雑で大きなタンパク質の折り畳みをコンピュータで予測することは不可能です。しかしながら、将来的にコンピュータであらゆるタンパク質の「折り畳み」を予測できれば生物の機能や疾患の理解が飛躍的に進み、より良い新薬の開発に繋がる可能性があります。

■ タンパク質フォールディング(折り畳み)のイメージ図
タンパク質は配列に応じた形に折り畳まれて多様な機能を発揮する。
(Protein Data Bank (http://www.rcsb.org/)からダウンロードしたデータを元にOpen-Source PyMOL を用いて三井情報にて作成)

おわりに

三井情報は長年、コンピュータを使ってタンパク質の「かたち」、「動き」、「性質」を理解し、創薬に繋げる研究に携わってきました。

近い将来コンピュータでタンパク質の「折り畳み」を予測し、病気に苦しむ患者さんへ革新的な新薬を届ける時代が訪れることを信じて、日々アルゴリズムの開発やデータ分析技術の改良に挑んでいます。

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